講演会(ご案内・ご報告)

第12回講演会

プログラム2
「丸山ワクチンの New Evidence」
埼玉医科大学国際医療センター 婦人科腫瘍科教授
藤原 恵一先生


1.Evidenceとは何か

 皆様、こんにちは。初めまして。埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科の藤原と申します。
 今日は多分、主に患者様あるいは患者様のご家族の方が参加されているんだと思いますが、このような立派な会にお呼びいただいてありがとうございます。学会で発表するのは慣れていて何ともないんですが、余りこういったところで話し慣れていないものですから、実は緊張しています。
 先ほど丸山様からご紹介がありましたように、丸山ワクチンの科学的なエビデンスがそろそろ出かかっていて、本当に有効だということが証明できるのではないか、そういう兆しが見えてきております。タイトルが「丸山ワクチンの New Evidence」と、英語を使ったのでちょっとハードルが高くなってしまったかもしれませんけれども、まず、この「New Evidence」って何だというお話をさせていただいて、そして、丸山ワクチンに対する臨床試験が延々と行われてきたわけですけれども、なぜこのようなことをしなければならないのかをぜひ皆様方にご理解いただきたいということで、この臨床試験の重要性をお話ししたいと思います。
 まず「New Evidence」って何だということです。「New」は「新しい」「Evidence」は「根拠」とか「証拠」。裁判の用語でもあるこの「エビデンス」が医療の場面でどう使われるかといいますと、Evidence-based medicine─EBMといって最近ちょっと流行りなんですけれども、これは「証拠あるいは根拠に基づいた医療」と訳されます。
 では、その「根拠」は一体何だろうということになるわけです。根拠は、医師が1人の患者さんを診察して「この治療を行いましょう」と決めるわけですけれども、どういう理由でこの治療を行うかを決める、その理由であります。
 まず、その「根拠」には、いろいろなレベルがあるというお話をします。【スライド1】

【スライド1】

 ここには、このようにいろいろなレベルがありまして、ランダム化試験とかコホートだとかややこしい医学用語があるんですけれども、1つ見ていただきたいのは、この一番下のレベル6、上からだんだんエビデンスのレベルが低くなるんですけれども、その一番下にあるのが専門家個人の意見。専門家が何人か集まって何の根拠もなく「これでいいんじゃない?」といったことを示す、これが専門家の意見で、これは、もちろん専門家ですから一応エビデンスとして認められているんですけれども、レベルは一番下ということです。
 それに対して一番レベルが高いのが、ランダム化比較試験のメタアナリシスというのがあります。これもややこしいので「ランダム化試験って何だ」ということも後でご説明いたしますが、その前に、丸山ワクチンのエビデンスについて少し振り返ってみたいと思います。


2.1981年当時の丸山ワクチンのエビデンス

 1981年に国会での議論があったわけですけれども、私も本を読ませていただいてその内容を見てみますと、実はこれは専門家の意見のレベルなんですね。つまりエビデンスレベルが6という一番低いレベルで、「効きましたよ。よかったです」というケースレポート、つまり症例報告も幾つかあります。多分このレベル4ぐらいの処置前後の比較研究とか、「丸山ワクチンを投与した場合と投与しない場合を対照にしてちゃんと比べてみましょう」というようなことがなくて、「投与してみたらこれだけ効いた患者さんがいらっしゃいました」という程度のレベルが現存しているものだと思います。これでは今のレベルでは厚労省の承認は得られない。
 ところが、このレベルで不承認にしてしまったのも変な話なんです。つまり、あの当時世の中を賑わせた国会での大議論は、実はレベルの最も低い議論であったということも言えるわけです。つまり、臨床試験がちゃんと行われていなかった。これは別にそのこと自体を批判しているのではなくて、その当時は「そういうことをしなければいけない」という社会の風潮もなかったし、日本にはそういう仕組みが全くなかったということであります。
 そこで、この丸山ワクチンのエビデンスをつくるために、先ほど申し上げた、一番レベルの高い所にあったランダム化比較試験をやらなければいけないことになります。


3.なぜランダム化比較試験が必要なのか

 では「ランダム化って何だ」ということになるんですけれども、「ランダム化」というのは、無作為に治療法あるいは治療の有無を割り付けるということです。それは、実はコンピュータで割り付けられます。患者さん、医師には選ぶことはできません。わかりやすい話、コンピュータでなくてもコインをポンとトスして表が出たら丸山ワクチン、裏が出たら何もしないとか、そういった物の決め方なんですね。そんな乱暴なと思われるかもしれません。倫理的に問題ではないのかという議論は当然出てくるわけですが、ところが、これはバイアス─これもまた後で説明しますけれども、人間の偏見とか考え方の偏りですね。それを排除する最も科学的な方法であることが世界じゅうで認められていますので、これを用いることになります。
 では、ランダム化を用いなかったらどういうことか起こるか、ちょっと説明してみたいと思います。まず、ランダム化を行わずに比較試験をしようとします。そうすると、医師のバイアス、患者さんのバイアスが入る。このバイアスがどう入るかを説明しますね。
 まず、医師のバイアスの例です。例えばAという薬─これを丸山ワクチンに置き換えていただいたらいいと思います。丸山ワクチンという薬が効くと信じている医師は、効きそうな、あるいは状態のよい患者さんに投与して、状態の悪い患者さんには投与しないという可能性が出てきます。ところが、効かないと信じている医師は効かないことを証明したいわけですから、効きそうにない患者さんに投与して状態のよい患者さんに投与しない、こういったことが起こらない保証はどこにもありませんよというのが前提なんですね。つまり、人間の考え方には感情だったり思い込みだったり、そういうものが絶対に入り込むので、それを排除しなければ科学的なデータ、客観的で正しいデータは出ないというのが前提になっているということであります。
 もう一つは、患者さんのバイアスです。例えば、他に方法がなくなった患者さんほど藁をもつかむ気持ちで投与を望むということも出てきます。そういう患者さんだけを対象にしていればいいんですけれども、やはりいろいろなレベルの患者さんがいらっしゃるわけですから、患者さんの希望を聞いていると、どうしてもその中でばらつきが生じてしまうわけであります。
 ですから、ランダム化を行うことは客観的なデータを示す唯一の方法です。これは先ほど申し上げましたように世界的に認められた方法なのです。


4.嫌々関わった丸山ワクチンのランダム化第2相試験

 丸山ワクチンのエビデンスを構築するために、私たちは、子宮頸がんに対する放射線治療との併用ということでやりました。
 手順としましては、まず、用量の設定試験です。用量設定というのは、丸山ワクチンをどのくらい投与すればよく効くか、その量を決めるということです。具体的な例は後ほどご説明いたします。これはランダム化の第2相試験という方法ですけれども、それが済んだら、今度は生存率が向上することを証明しないといけません。つまり、丸山ワクチンを投与すれば本当に患者さんのためにメリットがあるんだということを、がんの治療の最終目標である生存というところを目標に決めて、それが証明できるかどうか検証する、これが生存率向上の検証試験だと言えると思います。これはランダム化の第3相試験となります。
 2相、3相とあるんですけれども、3相というのは最終的な検討です。2相というのは3相試験をする前に当たりをつける、そういった差があると考えていただいたらいいと思います。
 それでは、第2相試験のお話をします。
 これは実はもう英語の論文になっているんですね。この論文については内容の査読─論文の内容をしっかり見て、書いてあることに問題はないか、あるいは疑問点があればそれに答えてほしいといったやり取りをすることがあるんですけれども、そういった過程を経て発刊されたものであります。
 ここに「Randomized phase2」とありまして、私の名前がここにあるんですが、実はこれを行ったのは近畿大学の名誉学長である野田紀一郎先生、ご高齢でもう引退されましたけれども、とても元気な方です。その先生の指導で1992年からやることになったのですが、私は当時川崎医大にいて、お手元の私の略歴にも書いてあると思いますけれども、嫌々始めたわけであります。
 実は1981年というのは私が医者になって2年目です。1979年に医者になったんですけれども、そういったところでああいう議論を見せられて、厚労省がそういった決定をするとなると、これは非常に不適切な表現になるかもしれませんけれども、「ああ、丸山ワクチンってうさん臭い薬なんだな」とずっと思っていたわけであります。そしてアメリカに留学してこちらに帰ってきて、最初に臨床試験を始めるというときに丸山ワクチンの話があったわけです。Z-100というコード番号です。
 ですから私、上司には「先生、こんなこと引き受けていいんですか」と申し上げました。私の上司は「藤原君、効くか効かないかはやってみなければわからないし、最初から偏見を持って拒絶するのはよくないけれども、何よりも、偉い先生に頼まれたときには四の五の言わずに『やります』って言っておけばいいんだよ」ということで始めたわけであります。それで始まったのがこの試験なんですね。


5.第2相試験の結果は濃度が高い程、腫瘍縮小率の改善を示した

 その用量の設定試験は、丸山ワクチンと同じ成分であるZ-100の有効性を証明するための前段階として、最も有効な投与量を決めましょうというのが目的であります。対象は子宮頸部扁平上皮がんの3B期です。皮膚と同じ組織のがんが扁平上皮がんで、腸の粘膜などのがんは腺がんですね。ですから、皮膚と同じような組織からできたものです。なぜこれを選んだかというと、実は放射線治療が非常に効きやすいがんだからなんです。それの3B期ということで、結構進行したがんの患者さんでこの研究をしましょうということになりました。
 ただし、例えば3B期で手術をしたら取り切れる、そういう患者さんをこういう試験に入れてはいけないわけです。つまり、手術で治るんだったら手術しなさいということになるんですけれども、放射線治療しか方法がない患者さんを対象として、標準治療にZ-100を上乗せする。そして、このZ-100の用量を3つ設定します。それは2マイクログラム、20マイクログラム、40マイクログラム。2マイクログラムというのは丸山ワクチンのA液と同じ量です。20マイクログラムというのはアンサーという、その当時、既に放射線の副作用を軽減する役割を持っているということで厚生労働省が承認していた薬なんですけれども、それとその倍量の40マイクログラム、この3つの量を設定しました。そしてその治験薬を放射線と併用して、その後、維持療法として投与します。
 登録期間は、1992年から94年です。
 まず、2マイクログラム、20マイクログラム、40マイクログラムの各用量に割り当てられた症例数は36、39、35とあるんですけれども、これはコンピュータで割り付けたわけであります。
 そのときの奏効率─というのは、放射線を照射したらそれがどのくらい小さくなりました、効きましたということ─を、放射線終了後4週間目に判定することにしたわけです。これは数字が大きいほどよく効いたということです。72%、84%、94%ということですので、ねらい通りに、用量が多くなればよく効きそうだということがランダム化試験で証明されたことになります。【スライド2】

【スライド2】

 実はこのとき生存のデータもとったんですけれども、そのデータはこうです。これはカプラン・マイヤーという方法なんですけれども、これから何回かこのグラフが出てくるので、まずは見方を覚えておいていただきたいと思います。【スライド2】
 横軸に0、1、2、3、4、5、6、7と書いてありますけれども、0は治療が始まったところです。そして治療が終わって1年経過し、2年経過し、3年経過しと、これが時間軸であります。そして、縦軸に「survival rate」と書いてありますけれども、これは生存割合です。治療が始まった時点では100%の患者さんが生きていらっしゃるわけですけれども、残念ながら、治療が効かないために亡くなる方が出ていらっしゃいますね。そうすると、このように下がってくる。つまり時間の経過とともに生存率が落ちてくることになります。ですからこのグラフは、この落ち方が緩やかであるほど治療がよく効いていることになりますし、早く下のほうに落ちてくると治療が効きにくいことになります。
 これを見ると余り差がないんですけれども、よく見るとこの点線の40マイクログラムの群が一番よくないんですね。そのときには気づかないんです。今なら「あ、このときにその予兆があった」と言えるんですけれども、このときにはそのようなことは言えないんです。なぜかというと、症例数が少ない。つまり、これが統計学的な処理をしたとき、意味のある差かどうかは、この症例数では判定してはいけないことになります。
 例えばこれと同じグラフで症例数が360、390、350だったら、多分これは40マイクログラムが一番よくないという結論がこのときにもう出ていたはずなんですけれども、それが出ていない。では、最初からそうすればいいではないかという意見があるかもしれませんけれども、実はこの3つの濃度をすべて検証することが目的ではなくて、最初は一番効きそうなところできちんと検証しましょうということで、まずは少ない数で当たりをつけるのが第2相試験の目的です。ですから、第2相試験の目的は腫瘍縮小率の比較で完結しています。余分な解析をしたらこういうことが出てきたんですけれども、この時点では、これは何の意味もないというふうに読まなければいけないんですね。
 そういうことで、今回の試験結果は「Z-100は、用量依存性に子宮頸部扁平上皮がんの腫瘍縮小率を改善したことが示された」ということになり、次の有効性の検証試験に移っていくわけです。


6.生存率により有効性を証明する第3相試験

【スライド3】

 目的は、この40マイクログラムという最も有効であったものとの放射線治療併用と維持療法を行った場合の有効性と、つまり、生存を改善する、よりよく生存率を上げるということです。そして、もちろんその安全性に問題がないかどうかも見なければいけないんですけれども、幸いこのZ-100は安全性が非常に高いということで、今日は副作用のお話はしません。けれども、実は副作用のデータもきちんととって比較しております。
 方法としては、ランダム化比較試験。第3相比較試験を行ったわけであります。
 実はこの試験ももう論文化されています。「Gynecologic Oncology」というアメリカの婦人科腫瘍学会が発刊している雑誌に掲載されました。野田先生と私の名前以外に今度は随分たくさんの先生の名前が出ていますけれども、実はこの試験ではすごく大人数で検証することになりましたので、たくさんの先生方の協力が必要だったということであります。


7.プラセボの代わりに低用量0.2マイクログラムのZ-100を用いる

 どういうことをしたか。3B期の子宮頸がんをランダム化して、放射線治療と40マイクログラムのZ-100を併用し、その有効性を証明しようということになったんですけれども、それと比較するのにZ-100の0.2マイクログラムというのを持ってきました。この試験は、本来ならばこのZ-100を全く使わない群を標準にしなければいけないわけです。つまり、放射線治療がその当時の標準治療ですから、その標準治療にこのように他のものを入れてはいけないんです。
 ここに「プラセボ」と書いてありますけれども、プラセボというのは偽薬です。こういった試験のときには生理的食塩水を用いることが多いんですけれども、プラセボ試験。要するに、ただの水を延々と打ち続けるということをしないといけないわけです。
 またとんでもない話をしているなと思われるかもしれませんけれども、このプラセボ試験がなぜ重要かという根拠を少しお話ししておきます。
 これはがんではないんですが、心筋梗塞の患者さんに対する抗不整脈薬の比較試験が行われて、「The New England Journal of Medicine」という臨床としては一番の雑誌に、1991年ぐらいに発表されました。これ以前は心筋梗塞の患者さんに不整脈が出た場合、やはり患者さんは不整脈を何とかしてほしいと訴えられますので、抗不整脈薬が投与されたわけです。その抗不整脈薬を投与するという医療行為自体に少し疑問を持った先生が、それはちょっと問題があるかもしれないと。つまり、それを投与した人が早く亡くなるという印象を持って、そしてこの抗不整脈薬を投与することが本当に有意義であるかを検証する比較試験をやりました。その結果、実はプラセボを投与された患者さんのほうが生存率がよかったということです。
 つまり、医師の常識的な考え方では「患者さんがこういう症状を訴えているんだから、それをとることはきっと何の害にもならないはずだ」と判断するのが当たり前なんですけれども、実はそうではなくて、不整脈の治療をすると症状はとれるけれども死亡率を悪化させるということがわかったわけですね。この試験ではプラセボの投与が行われているんですけれども、不整脈というのは、ドキドキしたりいろいろな症状があるんですけれども、ドキドキには心理的な要因等が関わるわけです。もし無治療群を設定しているとドキドキがおさまらない患者さんでは「私は薬を飲んでいないからちっともよくならないわ」と訴えることもあるはずなんですね。何も治療しないというふうにしてしまうと、そうなってしまう。ところが、その薬が本物の薬なのか偽物の薬なのかだれにもわからないようにしてその試験をすると、そういった患者さんの心理的な要因が排除できます。そのようにして非常に客観的な、クリーンなデータが出るわけですが、そのプラセボを投与された患者さんのほうがよかったというデータが出ている。
 それ以来、一番客観的な、正しいデータはプラセボを用いた比較試験であるというのが現在の臨床試験の常識になっているわけであります。 では、なぜそれなのにプラセボを使わずに0.2マイクログラムのZ-100を用いたのかが疑問になると思います。実はこのスタディを始めた1995年当時、日本ではプラセボを用いることに対する心理的な反対意見が非常に多くて、できなかったんですね。そういうことで、プラセボの代わりになりそうなということで、丸山ワクチンのB液と同じ量の0.2マイクログラムのZ-100を用いた。これはアクティブプラセボと呼ばれているんですけれども、そのようにしたわけです。
 ということは、言い方は悪いんですけれども、当時、丸山ワクチンのB液は水と同じぐらいの効果しかないと考えられていたと言わざるを得ないんですね。しかし、これが実は今後の展開に物すごく大きな影響を及ぼしました。つまり、私がここで何を申し上げたいかというと、このときにプラセボを用いた試験をしていたら、丸山ワクチンは世の中から消滅していたということであります。たまたまこういう偶然で0.2マイクログラムのものを用いたから、今、科学的な証拠が得られるようになって、希望の光が見えてきた。これは本当に偶然なんですね。もうびっくりするような話です。今から考えるとそうなんです。当時はもうどうするんだと、このプランニングをするときは大変だったんですね。


8.5年生存率で低用量が高用量を上回る結果

 それでどうしたかというと、これはなかなか大変だったんですよ。4年間かけて221名の患者さんにご協力いただきました。そして、グループHはハイドーズといって高用量、こちらが低用量です。緑と赤です。この110人と111人の患者さんが、このようにランダムに割り付けられました。
 投与スケジュールは、放射線治療を行っている間は1週間に2回打ちます。そしてそれが終わった後は2週間に1回というスケジュールにしています。
 この結果どのようなことがわかったかといいますと、こうなりました。私たちがいいと思った高用量の方が悪かったわけです。この試験は二重盲検といって、高用量をやっているか低用量をやっているかは医師にも患者さんにもわからない。コンピュータしか知らない。その生存のデータをまとめて一番最後にキーオープンします。そしてコンピュータでこのようなグラフを書くんですけれども、このようになったんですね。 【スライド4】

【スライド4】

 最初はこの差が出ていたので「わぁ、やったぜ」という感じだったんですけれども、よく見たら「何だこりゃ」ということで、このときはもう大騒ぎになりました。つまりよく見ると、丸山ワクチンと同じ成分のお薬をたくさん使用したら毒になるということなんです。これはとんでもない話だということで、ある高名な大学の教授はこれをつくっている会社の方に「おまえたちは、こんな薬をつくっていたのか」と怒り出す始末で、最初はうまくいったらシャンパンでも飲もうかと思っていたんですがお通夜状態になって大変だったんですね。もう大事件だったんです。
 私も当時は偏見の固まりでしたので、実は丸山ワクチンに関する都市伝説として、いろいろな医者向けにやっている講演の中で、丸山ワクチン(Z-100)を高用量で用いると子宮頸がんの予後が悪くなったということについて、「ほらね、だから言ったじゃない」と私が言うわけです。「丸山ワクチン効くわけないでしょ、ひどいものだよね」と本当に思ったんです、最初は。それにしても、用量依存性に予後を悪化させるというのはちょっとおかしいな、もうちょっと掘り下げてみようということで、いろいろなデータを調べてみました。
 おさらいをしますと、Z-100の臨床試験で得られた5年生存率は、低用量のほうは58.2%で、高用量では41.5%だったんです。ところが、当時の日本産婦人科学会の子宮頸癌3B期の5年生存率を見ると34.9から42.0%でした。「あれ? 高用量群の生存率は日本産婦人科学会の普通の生存率と一緒じゃない」ということになったわけです。これはもうちょっと調べないと。日本産婦人科学会のデータだけではだれも信用してくれない可能性があるというとこで、アメリカのデータと比較してみました。
 この結果が出た当時、実は放射線単独で治療するよりもシスプラチンという抗がん剤を併用したほうが予後がよくなりますよというデータがアメリカのグループから出ていたんです。その生存曲線と比べてみましたら、実は低用量群の生存曲線のほうが放射線と化学療法の併用と一緒で、高用量群のほうが放射線単独と一緒なんですね。もうひとつ同様の臨床試験があったので生存曲線を重ねてみたんですけれども、同じ傾向があった。つまり、低用量群の生存曲線がアメリカの放射線単独のデータよりもいいんですよ。つまりZ-100低用量の併用で、抗がん剤と併用したのと同じような効果が出ている。【スライド5】

【スライド5】

 つまり、「丸山ワクチンを高用量で投与すると子宮頸がんの予後が悪くなる」ということではなくて、「低用量のZ-100(丸山ワクチン)は予後を改善する」しかもシスプラチンと併用した放射線療法と同等の効果があるんだと。ところが、その量を使い過ぎると予後を改善する効果が消滅してしまうと解釈したほうがいいのではないかと考えたわけです。これはとんでもない仮説なんです。だれも証明したことがない。これを証明するためにはZ-100─丸山ワクチンB液の併用と、今度はプラセボを用いなければいけないことになります。


9.丸山ワクチンB液と同じ低用量対プラセボでの第3相試験

 この試験は、製薬メーカーの方がやってくれるかどうかわからなかった。多額の投資も必要だろうし、これでこけたらとんでもないことになりますので、やってくれるかどうかわからなかったんですけれども、それをやるということで先に進んだわけであります。大変勇気ある決断だったと思います。
 この臨床試験の結果が、先ほど丸山様からご紹介いただいた去年のアメリカのがん治療学会での発表につながりました。実は、その発表はもう論文化できまして、数週間前に「Annals of Oncology」に発表されました。これは化学療法の雑誌としては結構いいほうになります。
 どのようにしたかというと、249名の患者さんをZ-100とプラセボにランダム割り付けさせて頂きました。【スライド6】

【スライド6】

その結果、このようになりました。【スライド7】

【スライド7】

Z-100の0.2マイクログラムが75.7%、そしてプラセボ、つまり放射線の単独が65.8%です。この当時は抗がん剤との併用も行われていましたので、この65.8%というのは先ほどの悪かったほうより大分いいですよね。前は41%ぐらいだったんですけれども、65%。そしてZ-100の0.2マイクログラム併用は75.7%ですから、5年生存率で10%の上乗せができたことになります。
 すばらしいデータですよね。「よし、やったぜ」ということになるんですけれども、ここに「p=0.0737」とあります。pというのはポッシビリティあるいはプロバビリティの略なんですが、要するに、この試験の結果が統計学的に有効であるかどうかを示す指標であります。これが0.05未満でないと、この結果は統計学的、つまり科学的に有意義な結果だとは認められません。
 こんなに差があるのにどうしてそうなったんだろうということになりますが、実はこれは患者さんの予後が想像以上によかったということであります。これはわかりにくいんですけれども、「この程度のスピードで患者さんが亡くなるだろう」と思っていたのが、実際に半分ぐらいしか患者さんが亡くならなかったんですね。つまり、これだけ予後が変わってしまうと、もっとたくさんの患者さんに参加していただいておかなければいけなかったということです。
 その原因としてはいろいろあるんですけれども、抗がん剤と併用の患者さんが予想以上に多くて予後がよくなったとか、あとは2期の患者さんが予想以上に多かったんですね。ですから、3期だけでやると実は予後も統計学的に有意に良好だという差が出ているんですけれども、残念ながらそれは全体の一部のデータということで、認められないということになってしまいました。


10.さらにアジアでの臨床試験を準備中

 ……ということで、この検証試験を全部まとめてみますと、高用量のZ-100は低用量よりも予後が不良であったということ。そして、低用量のZ-100はプラセボよりも予後がよかったけれども、統計学的に有意差が認められなかったということであります。現時点では、これが事実です。
 もう一つ、ぜひ皆さんに理解しておいていただきたいことがあるんですけれども、先ほどのグラフがあります。こちらが丸山ワクチンを用いた患者さんの生存曲線、こちらが丸山ワクチンを用いていない患者さんの曲線です。この丸山ワクチンを用いたことで予後がよくなった患者さんがどこに含まれるかというと、実はここになるんです。【スライド8】

【スライド8】

 言い換えますと、この青のラインより下の患者さんは丸山ワクチンがなくてもこれだけの生存が得られているわけですね。ですから、この青と赤の間の患者さんにメリットがあることになります。これが科学です。
 「え、そんなものか」と思われるかもしれませんけれども、これが客観的な事実なんですね。でも、こういった10%の差を地道に地道に積み重ねることによって、がんの治療の効果はどんどんよくなってきています。それを客観的に証明するのが臨床試験です。ですから、臨床試験をきちんとやっていかないと、いつまでたっても人を説得できる、あるいは世界じゅうのだれに対しても「これはいい薬ですよ」と言えないわけですね。
 今後ですけれども、これもメーカーの方の英断だと思いますけれども、やはりこれはリベンジしなければいけないということで今、もう新聞に載っていたので公開されているのでご存じの方もおられるかもしれませんが、アジアトライアルということで、600例ぐらいを対象にして今、準備が進められています。もちろん日本からも参画しますし、私たちは、これが子宮頸がんに対しては最終決戦になると思っていますので、ふんどしでも鉢巻きでも、締められるものは何でもしっかり締めてやっていきたいと考えています。
 それから、このような事実を見ますと、これはやはり効くということを前提にしていろいろな研究をしていかないといけないと思います。免疫の賦活剤ですので、理論的にはどんながんでも効くはずなんですね。ただ、先ほど申し上げましたように、限られたポピュレーションしか効かないんだということも十分認識した上で冷静に、私たちは医師として、科学者として丸山ワクチンの開発にこれから貢献していければ大変光栄だと考えています。
 ご清聴どうもありがとうございました。(拍手)