講演会(ご案内・ご報告)

第3回講演会

プログラム2
『学術文献からみた丸山ワクチンの軌跡と展望』
静岡県立静岡がんセンター病理診断科部長:亀谷 徹


1.はじめに

亀谷 徹先生  ただいまご紹介いただきました亀谷です。
 本日私がこの『学術文献からみた丸山ワクチンの軌跡と展望』と題してお話する前に、まず、私の背景を少々申し上げておきたいと思います。
 私は、医学部を卒業してから病理医として45年間過ごしてきた者です。病理医の仕事というのは簡単にいえば患者さんの組織や細胞を採取して、それを顕微鏡で見てその病気の性質を予測あるいは決定することです。直接患者さんと接することはありません。
 私はもっぱらがんの病理診断に専念してきました。したがってがんの疑いのある患者さんのほとんどは私どもの手にかかって最終診断が行われるので、病理医の診断なくしてがんの治療の方針は決定できません。同時に手術材料や病理解剖により腫瘍の進行度を決定します。大学医学部定年後、私が今勤めている静岡がんセンターというところは、このような患者さんばかりのところですから、来院する患者さんのすべてが私どもの診断に基づいてそれぞれの治療方針を決めるということになります。要するに45年間、がんに対して悪戦苦闘してきた人間の一人だとお考えになってください。
 次に、私が丸山ワクチンを話すのはなぜかと申しますと、先ほどちょっとお話ありましたように、丸山ワクチンの生みの親、丸山千里博士は私の義父にあたりまして、私どもが結婚してから約30年間親しく家族づきあいをし、お互いに医師である間柄でありますので機会あるごとに丸山ワクチンのことについて、その効果について話し合っておりました。NPOは義父の孫たちにもおじいちゃんがどんな仕事をしてきたのか聞かせたいと思われて、この会に何人かを来るようにしてくださいました。以降丸山ワクチン、これは現在ではSSMと言っているのですが、Specific Substance of Maruyamaの略のSSMという言葉で今では言われております。その生みの親のおじいちゃんとこれから呼ぶことにさせていただきます。家族が集まるごとにおじいちゃんは無口なほうで、私と二人だけになると急に多弁になって、熱心にこれこれの患者のSSMの効果はすばらしかった、驚くべき例があるぞと目を輝かせて情熱的に私と話し合ったものであります。このことはきのうのことにように思い出されるわけであります。
 きょうの話では1980年ごろのSSMの厚生省認可申請をめぐる社会問題などには一切ふれることはいたしません。またSSMの研究もせず、SSMを直接患者さんの治療に使うこともしたことがない私、一医師の立場でいわば第三者の立場でSSMの行方を一応ずっと見守ってきたわけであります。本日は医学界の文献にあらわれたSSMの軌跡をたどってみたいと思いますので、そして現時点でSSMは、がんの治療等にどんな役割を果たしてきたか、将来性はあるのか、先ほどの篠原先生のお言葉にもありましたように、新しい免疫治療法がこれからどんどん進む可能性もあるということも踏まえながら、いろいろ考えてみたいと思います。
 日ごろSSMについて私は実は不勉強だったのです。きょうお話するため、1年ほど前からSSMに関する医学文献を入手できる限り集めて勉強しました。そのまとめと言いますかあらすじを申し上げることとします。すなわちずっと丸山ワクチンがどういう運命をたどってきたかということを、論文の実際の数字によってお示ししたいと思います。免疫学は私の専門ではありませんので、きょうは基礎的な研究論文の成果は割愛させていただき、臨床面のみについてSSMの論文について申し上げたいと思います。



2.丸山ワクチンの誕生とがん治療への応用

 このSSMが誕生したのは1944年でございまして、昭和19年です。まだ太平洋戦争の真っ盛りでそろそろ終戦になる前の年ですね。そしておじいちゃんが病気に対するSSMの効果をはじめて世に問うたのは戦後間もない1947年です。この年皮膚に起こる結核に非常に大きな効果があるということを、おじいちゃんは発表いたしました。18例の皮膚結核のうち11例がほとんど完治したという論文であります。日本医事新報(1947年)、これがまずSSMの効果を世に問うた最初であります。それで結核に非常に大きな効果があるということがだんだんいろいろ数を重ねるにつれてわかってまいりまして、皮膚結核がSSM投与により完全に治ったという論文がだんだん方々から出てまいりました。
 そしておじいちゃんは、以後20年間ぐらい皮膚結核の治療に専念しまして、1964年までに日本全国の皮膚科の先生からSSMを使用したいとの希望が殺到いたしました。すなわちここにございますように518例の皮膚結核のうち408例がほぼ完治した、そして再発もほとんどなかったという非常に驚くべきデータでございました。それで皮膚科の間ではこのワクチンがすごいものだというふうに評価されて、みんながこのワクチンを取りにきたという話が書かれております。このころまでに結核菌の菌体成分を抽出したSSMの副作用を除くことなどいろいろおじいちゃんは苦労を重ねまして、結局副作用を除くことで質の向上を図るという非常な努力が払われてきたと思います。そのことは論文に比較的詳しく書かれておりまして、丸山ワクチンが170種類もつくられたと。そして試行錯誤を繰り返してその中から丸山ワクチンC型というものですね、それが副作用もほとんどなくて効果のあるものだということをおじいちゃんは確認して、さらに研究を進めていったわけであります。
 ところが、ここに書かれているハンセン病というのはご存じのように昔はライ病といわれた皮膚の病気でございまして、患者さんはライ療養所に隔離されることになっていた病気です。おじいちゃんはライの原因であるライ菌が結核菌と共通性があることに着目し、同じころからハンセン病の治療にもSSMを使用しました。他の薬ではなかなか効かなかったライの神経麻痺に著効のあることを発表いたしました。これがそのデータでライではなかなか汗が出なくなるんですね、それが出るようになったと、それから知覚麻痺が回復し始めたのが43例、27例と100名のうちの患者さんのこれだけのデータが出て、これはやっぱりワクチンがライ病にも効くというデータでございます。
 丸山のおじいちゃんは皮膚結核、ハンセン病のみならず皮膚の腫瘍でもSSMがどうもその腫瘍が大きくなるのを抑えるらしいということを観察しておりました。また同時に結核療養所やライ療養所の患者にがんが少なくてライが新しい薬で治るようになってからは、逆に療養所のライの患者さんのがんがふえてきたというような印象をもちました。そこでSSMが結核、ライばかりではなくがんにも効くのではないかという結論に思い至るのであります。すなわち、末期がんの患者さんにSSMを使用することに踏み切ったわけであります。
 この例は末期の患者さんです。74歳の女性で胃がん、もうがん性腹膜炎になっている患者さんです。その患者さんは食事を口からとることができない状態でありまして、開腹してみますと胃の出口のところに大きなこぶし大の腫りゅうがあると、それでこれは到底胃切除をするのは無理だというので、空腸瘻をつくって手術を終了したわけです。そこで手術後より46日、毎日1回ワクチンを注射し始めました。毎日1回ですね、注射開始後、腫りゅうにふれなくなり、110日で大体普通食をとることができるようになった。そして注射開始後175日で腸瘻、すなわち下の方から栄養を送るチューブをもう取り除いてもいいという状態になって、結局患者さんは健康体に回復したというような状態、これがおじいちゃんが初めて発表したがんに丸山ワクチンを応用した最初の論文の中の症例報告でございまして、それが1968年ということになります。
 そのときの論文によれば、表に示しますようにこれだけのがんを扱って、これに対してワクチンを使ってみたと、そうしますと非常に効いたのが30例、有効な例が68例というデータが出まして、これががんに使ったワクチンがどれだけ効いたかということの最初の論文です。世界で初めて、普通の抗がん剤ではないもので薬が効くのだということを世に問うたわけですから、このデータを論文にまとめて発表するときにはかなりの勇気を要したと思います。私の聞く話によると、どうもそのときに心筋梗塞を起こしたらしいのです。これを発表するのはあまりにも心痛であると、どういう反応がくるのかと心配で心配で仕方がなかったというのがおじいちゃんの心境だったと思います。
 その後、1980年代まで日本医大の丸山ワクチン施設へSSMをもらいに来る末期がんの患者さん、またはその家族の数はうなぎのぼりに増加しております。末期がんの中で著効を示した例は現在に至るまで枚挙にいとまがありません。しかし現在に至るまで詳細な症例報告が医学会に発表された頻度は予想外に少ないのです。実際に効いた効いたという意味ではいろいろ聞いて、それでお医者さん同士でもあの患者さんは効いたぞということは聞いても、それを正確にひとつの症例について、これはこういうふうに効いて、これだけの効果があったのだということを証明するようなデータを付けて出した報告例というのが非常に少ないんですね、非常に残念なことです。すなわちこの薬は本当にがんに効くのかどうかというのは、なかなかその時点でも難しい問題があったと思います。



3.がんに対する効果:丸山ワクチンと通常の化学療法とのちがい

 ここには末期の胃がんの患者さんでそのころ通常行われていた化学療法にSSMを併用した場合、それが32例、それからSSMを併用しない化学療法だけの例、この2つを比較してこういうふうに載せて、服部先生がご発表になったものですが、1980年です。そうしますと、併用したものでは50%の生存率があるというのが5.5カ月です。化学療法だけの場合には2.9カ月です。それから1年のときには両方使ったときには28%のが、両方使わないで化学療法だけの場合は1.3%というようなデータで、明らかにこれはワクチンに延命効果があると考えざるを得ないというふうに私自身は判断し、また多くの方がそう判断していると思います。これも服部先生が1980年に全国6施設の共同研究で行われたものであります。
 この図は同じ年、1980年に非治癒切除の胃がんの症例について愛知がんセンターが中心となり東海地区の23病院の検討で化学療法のみのA群と、それからワクチンを使った場合の生存率の月々の推移です。両方とも末期がんでございますからどんどん患者さんは死んでいきます。しかし例えば10カ月のときにおいて両方使った場合、化学療法だけではない場合は70%まだ生存している、それに対して化学療法だけの場合は47%ということで明らかにB群、すなわち丸山ワクチンを併用した場合、化学療法をしても丸山ワクチンを併用した場合には生存率が高いということが言える。特にこの10カ月の例のときには明らかに有意差があるということが証明されたわけであります。
 ちょうどこのときは厚生省のSSMの認可の騒ぎが大きくなっていたときなんですね、そのときにこういうはっきりした有意の差が出るデータが出たのに、それにどういうふうな形で拒否されたのか知りませんけれども、ともかくSSMはがんに対する効果なしという判断をしたわけであります。このときから現在までに25年たっております。現在はがんの進行度をもっと正確に診断できるようになっております。したがって今一度このような調査はぜひやってほしいと思うのですが、なかなか時代の趨勢によってこれも思うようにならないように私は思います。
 この図は1987年、丸山ワクチン施設の飯田先生ほかの方々が出された論文であります。こういう論文はおそらくこういうワクチン施設でなくてはできなかった発表であると思います。非治癒切除143例の胃がん、その中で丸山ワクチンだけをやった患者さんと、丸山ワクチンと抗がん剤と両方やった患者さん、こちらはワクチンだけです。そうしますと、ずっと、どの時期を見ましてもワクチンだけの方が生存率が高い、それに対して両方やると生存率は低くなるということで、抗がん剤は延命効果よりもむしろ、これは私が勝手につくった言葉なのですが、縮命効果があると、抗がん剤は縮命効果をもたらすものであるという鋭い化学療法に対する批判ではないかと、そういう論文だと私は考えます。こういうデータはほかのところではなかなか出せなかったものだと思います。



4.肺がん:丸山ワクチンの効果

 さて、ここで肺がんの話をちょっと申し上げます。ご存じのように肺がんは日本でも年々急速に頻度が増加しております。私の記憶によりますと、ほぼ8年前からがんの死亡の第一を占めるようになっております。そしてIIIB及びIV期と診断される、すなわち進行した肺がんですね、その肺がんの患者さんの生存については非常にまだ厳しいものがあります。このデータは最近2007年の日本のデータでございますから、ごく最近の化学療法を施した肺がんの患者さんで非常に進行した例で両方とも赤も緑も進行した例です。それをごらんいただきますと、既に1年でほとんど90%近くは死亡しております。そしてその後ほとんど、この図をごらんいただきますと、もう横軸に平行になっていますね、ということはここまで生き延びた人はほとんどずっと生き延びる可能性があるということがいえるかもしれません。すなわちほんのわずか、ここで何パーセントとしていますかね、ほんのわずかのパーセントですけれども、2.2%ですか、それぐらいは生き延びる可能性があるけれども、ほかは全部亡くなってしまうというのが肺がんの現状なんです。これは最新の一番いい化学療法と思われるものを使ってすら、このような状態が今の状態であります。
 次のスライドをごらんいただきますと、丸山ワクチンを使った場合には、今のようなほとんどの患者さんが、九十何パーセントが1年か2年で死んでしまう、そういう患者さんの長期生存例がこのワクチン施設の中には存在するのであります。すなわち、肺がんIV期の長期3年以上生存例が49例も見つかっております。これだけ集められたわけです、たくさんの肺がんの患者さんの中から丸山ワクチンをやった患者さんで見つけたわけです。そのうちのほとんどは手術だけ、手術なしで放射線又は化学療法、こういうものをやった上でSSMをやったのが11例、丸山ワクチンだけをやった例が6例と、この両方についてともかく合わせてそのほかにいろいろな例があってちょっとわからない例もあるのですが、ともかく49例が3年以上生存したということは、肺がんの現在の治療法から考えまして非常に驚くべきことで肺がんの専門家が見たら、これは本当かなとまゆにつばをつける、ワクチンのことを知らないお医者さんたちはまゆにつばをつけるというのが正直なところではないかと思います。
 その中の一例をお見せいたしましょう。60歳の男の方、肺がんです。腺がんと診断されてIV期、すなわち遠隔転移がある症例です。1986年2月に一応手術でがんを取ったのですが、全部は取れなかったという状態、そしてそのあと、もう1年足らずで脳転移がきたのでそれに対して開頭して手術をいたしました。そしてその直後から、1986年8月から1994年6月の間、丸山ワクチンの投与を継続いたしました。この間、ほかの治療はいっさいやっておりません。そして発症後7年生存を確認したという例がこの症例でございます。
 というようなことが実際に起こっているということを私も今までまったく知らなくて、この平井先生の論文を見て初めて、あっ、こんなすごい例があるんだなということに気がつきました。



5.大腸がん:丸山ワクチンの効果

 次に、大腸がんのお話をいたしましょう。大腸がんは年々日本ではふえる傾向にあります。しかし肺がんと違いまして大腸がんはかなり進行していても治る例がかなり出てくるようになりました。しかしIV期というのは非常に悪い状態なのですが、これはアメリカの2004年のデータでございますが、11万9,000名の大腸がんの患者さんのデータで、これは世界で一番大きなデータだと思います。そのデータで見ますと、IV期の場合には大体5年まで生存する人は10%いかない、しかし最近の大腸がんを専門にやっている人の間では、そろそろ10%を超すだけの生存率がこの末期がんといわれる大腸がんでも起こる可能性があるという、新しい化学療法がつけ加えられてから言われているところであります。しかしともかくこういう状態なのが普通の状態なんですね。
 それがこのワクチン療法をやった患者さんで岩城先生のデータでは、ワクチン施設に取りに来た患者さんの中で12年から30年生き延びた患者さんというのが、化学療法も使ったけれども化学療法は5年以下で、あと11例、6年以上の例が6例というような状態のもの、それからまったくSSM単独だけのもの、こういうものを合わせて12年から30年の間生き延びた患者さんがいるということは、これもやはり驚くべきことではないかと考えております。



6.肝転移例:丸山ワクチンの効果

 それからもう1つ、ともかく進行がんの患者さんでは転移は非常に来やすいです。特に大腸がんは肝臓に転移することが非常に多いんですね。そしてこの患者さん、65歳の男性の例ですが、胃がんで胃はともかく一応取った。しかし肝臓に転移がきた。肝転移はこのように多発性に幾つも転移がきております。それが51年12月、それでワクチンを51年12月から始めて4カ月でこの転移巣が全部なくなってしまった。そしてそのあとずっとこの時期まで4年8カ月生存しているということが確認された症例です。これも驚くべきことだと思います。めったにこういうことは見られない、しかしこれもどれくらいのこういうふうな肝転移のある人で、化学療法をやってどれくらいの生存をした人が何人いるかとかいうことと両方合わせたデータがなかなかとることが難しいんですね、そこで本当にこれはワクチンの効果で全部こういうふうに考えていいのかという問題がございます。
 こういうふうな各臓器のがん症例がいくつかの論文にまとめられておりますので、それを私のいるがんセンターの若い医者連中に、5名ぐらいの医者にその論文を見せました、それぞれ10年以上がんを専門にやっている人たちです。したがってがんに関する知識は非常に詳しい、そういう人たちに肝がんについては肝がんの専門家、大腸がんは大腸がんの専門家にそれぞれその論文を見せてみました。そうすると、どういうふうに彼らは言ったでしょうか。こんなことは信じがたいと、いわゆる「がん特効薬」の広告文のようであると、症例の正確な提示がないので信じられないなどの返事が返ってきました。これらの意見は現在の日本の標準的ながん専門医の考えではないかと思われます。このような医師の声を聞かれると、SSMの効果を実証されている先生方にとっては何とも歯がゆく悔しいことだと思われることだと思います。しかし実際にはこういうことが日本の医師にも、それから世界の医師にも発信されていないのですね、それだけ効いている、効かなかった、あるいはこれだけは効いたんだというようなことが発信されていない。これが私は今の時点における一番大きな問題だと考えるのであります。



7.丸山ワクチンが驚くべき効果を発揮した最近の症例

 そこで、非常にこれはまさにドラマチックな例だなと私が感じた症例報告をやっておられる、小田原市の山近病院の井上康一先生が出された症例をご紹介したいと思います。66歳の男の方です。臨床診断は肝細胞がん、その前にアルコール性肝硬変がありまして肝臓が悪く、肝硬変等で脾臓がかなり大きくなっている人です。この人のエコーを見ますと肝のうしろの方に直径2.5センチぐらいの病変があるということがわかりました。そして腫瘍マーカーや、画像などによりstageIVbでかなり末期の肝細胞がんであると診断されました。それで家族の希望で塞栓術という腫瘍にいく血管を詰めてそこの腫瘍細胞を殺すという方法なのですけれども、そんなことはもうやってほしくない、それから化学療法もしてほしくないという患者さんの要望でSSMの使用だけを開始いたしました。そして2週間ころより呼吸困難、全身倦怠感が今まであったのが減って、食欲の増加を認め、4カ月後、復職して実際に勤務していたということでございます。実際にこれが信じられましょうか、そこでそれを実証するデータをお目にかけたいと思います。
 肝臓の画像です。ここに肝腫瘍と思われる欠損があります、ここにもあります。
 これが投与後、丸山ワクチン投与後4カ月で腫りゅうがなくなっております。
 それから肺です。投与前、肺に無数の1センチ大の結節が両側にあります。特に下の方が多いですね。

(スライド)18 SSM投与前 *出典


 それが投与1カ月後、まったく影がなくなっております。こんなことがあるでしょうか。井上先生ご自身が何ともびっくりしてしまって開いた口がふさがらないというふうな書き方をされております。けれども事実こうなんですから仕方がありません。

(スライド)19 投与1ヵ月後 *出典


 そしてこの人の実際にこれが肝細胞がんであったかどうかということを証明する方法で、こういうデータを井上先生は持っております。すなわち肝細胞がんになると血中にたくさん出てくる物質があるんですね、1つはAFPという物質、もう1つはPIVKA-IIという物質です。それが1995年5月26日、ワクチンをやる前です、23万1,000、8,000とすごく高いです。AFPが点線で示してあります、PIVKAが実線で示してあります。それがワクチンを使用してから1999年11月18日の折にはもうすごい勢いで下がっております、ほとんどこれは正常に近い値です。そしてその後ずっとその正常値を保った状態で2000年まできておるということでございますので、あとのことは私は言うことが出来るのは、この患者さんで、これはどうしても肝細胞がんが体から完全になくなってしまったというほかないと云うことです。
 ただ、ここで残念なのは肝臓のところの腫瘍を普通は針を刺してそれの組織を取りまして、顕微鏡で私どもが見る、そしてこれは肝細胞がんに間違いないということを証明したときに、初めてこの患者さんは肝細胞がんと正確には言えるわけですね、もしこのデータがそろっておれば、世界のトップジャーナルにこれを症例報告として出しても絶対に通ると私は思っておりますが、残念ながらそれがないんですね。



8.丸山ワクチンが、がんの治療で市民権を獲得するには

 また、ほかの例もいろいろすばらしい効きを示したということがあっても、万人を、特に医師を納得させるデータが不足しているものが非常に多いのです。したがってちゃんとしたものを症例報告としてつくるということが、そしてそれを世界に発信するということがものすごく大事ではないかと、それによって逆にワクチンは世界の、それから日本の市民権を獲得するのではないかと思います。しかもそのような症例報告は日本文ですら実際少ないのです。いや症例報告はほとんど日本文でもないのです。ところがそれを英語で書かなければ、実際に世界で日本語を読める人はほとんどいませんよね、大体日本人の医師の数というのは世界の数パーセントに過ぎないと思います。そうすると、あとの90%以上の方はそういう症例報告を決して読まないということになります。これが今の状態ではないかと私は考えておるわけであります。



9.丸山ワクチンの将来へ向けて

 そこで、SSMの将来の発展を目指してどうしたらいいかということを、この1年間一生懸命考えてみました。なかなか難しいことだということです。ワクチンはガンの治療に今までともかく貢献してきたことは確かでありますけれども、それが世に知られていない、医師に知られていない、世界の医師にも、世界のほかの人たちにもある特殊なルートを通じて知られているだけで、それ以外では知られていないということです。そこで先ほど篠原先生のお話にもあったように丸山ワクチンは廃れたと、廃れたように見えるけれども本当はうまくやれば、SSMと何かと合わせたような治療法を発見すれば、それは大いに使いものになるだろうということを、ある人が言っている。私もそれは全然間違いではないと思います。だから廃れたのではなくてみんなが知らないということが大きな原因だと、何とか皆さんが知るようにすることが大事ではないかと思います。
 新村先生がつくられた表ですが、このワクチン療法研究施設で1979年から2000年の間で大体15万2,900名のワクチンを使った患者さんが登録されております。そしてその中のがんはいろいろです、大体がんの頻度と似たような数字が出ております。トップ3というのは胃がんと肺がん、それから肝がんです。それぞれ2万件とか1万何千件というようなことで実際にこういうふうなすばらしい数を集めておられるわけですから、それも大いにまた利用しなければならない。新村先生はこれからもっと正確なデータをこの材料から出すことができるかもしれないとおっしゃっておりますけれども、今までのところでは私は本当にこれでうまくデータが出るのかなと、私は統計のことよく知らないもので、今のところはこれだけのデータがあるのだということを覚えておいてください  ところがこの登録施設、登録した患者の数ですね、それが年々、ピークはこの辺です、2万7,000、それがだんだん減りまして、特にこのあたりからどんどん少なくなっております。そして去年、ことしの3月までですが、3,145名、すなわち前の10分の1に減ってしまっているということはだんだん患者さんがワクチンを取りに来る頻度が減ってしまっているということは、もう明らかな事実でどうしようもないことだと思います。多分それは施設のかたがたによく分析をしていただいて、何故こう減っているのかということは知る必要があると思うのですが、私のちょっとした考えから言いますと、一般のがんの患者さんがSSMの存在をもう知らなくなってきた、昔はいろんな週間雑誌に出て、あるいは篠原先生やその他の人々が新聞に書いたりしていろんな人が知るようになった時代が1980年から85年ごろまではあったと思うんですね、そういうのがなくなっている。それでほとんどの医師が急速にSSMの存在を忘れつつある、SSMの存在さえ知らない若い医師がどんどんふえている。
 私が先ほど申し上げた静岡がんセンターの若い医師、若いといっても40ちょっと前ぐらいですが、その人たちはわずかに丸山ワクチンという言葉は覚えています、みんながんの専門家ですから知っています。しかしそれについてはもう頭からはっきり先入観をもっています。あんなものは水のようなものだと、それが徹底しております。1980年代のあの厚生省の拒否が大きな原因になっていると思うのですが、そういう状態が今来ているわけであります。そんなことで手をつかねて待っているほかないのかと言いますと、私が考え出したのはこんなことです。
 SSM関連の論文をこの1年間でできるだけたくさん読みました。そうしますと、臨床関係では英文論文はたったの7件、和文論文は72件ということは、世界の医者にはほとんど発信はないということを示しております。それから基礎研究の方ではかなり、特に最近の10年間で英文論文がかなり多くなっております。その大部分はゼリアとの関係でつくられた論文です、免疫関係の論文で非常にすばらしいものもあります。だからそれはどんどん発展させていかれるべきだと思います。それから高橋先生のような免疫の世界的な学者の助けを借りながらそういう論文がどんどん英文論文で発表されることが望ましいことだと思います。
 しかし、こういうことが今の状態なのですから、やはり、まず初めに症例報告を出すということが大事なのではないか、それはしかも英文で出さなければいけない。英文でもつまらない雑誌に出してはいけない、トップレベルの英文雑誌にそれが出なくてはいけないと思います。例えば皆さんご存じだと思いますが、『ランセット』という長年の歴史をもつイギリスの雑誌があります。それから『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』、こういう雑誌は世界的に有名で、その中には結構臨床的な問題もしょっちゅう取り上げられております。そしてすばらしい効きがあったというようなデータはわかりやすく、すべての医者がわかるように書かれております。そしてそれが出るときには皆さんその分野の方は飛びつくようにしてそれを読む、そしてたちまちそれは1週間のうちに日本のほとんどのその関係の医者はそれを知るというぐらいに人気のあるというか格の高い雑誌なんですね、そういうものにぜひとも載せる必要があるのではないか、それにはやはり正確なデータ、正確な資料、それに基づいた正確な判断ですね、そういうものに基づいた論文でないとおそらくなかなか通してくれない、通る確率は50倍とも100倍ともいいますので、そう容易なことではないのでよほどしっかりした先生が、よほどしっかりとデータを集めて発表しなくてはいけないということになると思います。
 そしてこういうことをやるには今のワクチン施設だけでそれをおやりになることは非常に無理があると思うのです。すなわち先生が3人いらっしゃいますけれども、もっといらっしゃるかもしれませんけれども、3人とも主治医ではないわけですね、ワクチンを取りに来るときにそれを説明する役割をなさっている、そしてどういう患者さんであるかということを記録するという形ですから、その先生方は治療と直接は関係していないわけです。したがって、その方たちではなかなか症例報告を書くことは難しい、やはりそれにはこの丸山ワクチン発祥の地である日本医科大学が頑張らなくてはいけないと思うのです。すなわち、今まで日本医科大学がどれだけワクチンのために貢献をしてきたかと、残念ながらあまりされてこなかった面もあると思います。したがって、これからそれを何とかするには日本医大の診療科の中に丸山ワクチンの治療の方法を導入するということにすれば、実際に患者さんは日本医大の中に登録されて、そこでそれを使うことができる。そして詳細なデータがカルテに記録され、画像も何もかも全部うることができると、そういうふうな形にしないとなかなか突破口はできないのではないかというようなふうに、私は考えております。
 私の考えのほんの一端でありますが、ほかにやるべきことはたくさんあると思いますけれども、そのひとつの方法としてこれはどうだろうというのが私の考えです。ご清聴どうもありがとうございました。(拍手)  できるだけ皆さんのご意見を、いや、そんなのはだめだとか、もっといい方法があるぞとかいろいろ教えてください。


※出典

臨床外科 2002年 56巻5号 699-702
「多発性肺転移を伴った肝細胞癌がspecific substance my cobacterium(SSM)単独投与で完全寛解した1例」
山近記念総合病院外科 同内科
井上康一・田島隆行・高誠勉・佐藤哲也・杉田輝地・遠藤茂通