丸山ワクチン(SSM)の研究概要

丸山ワクチン(SSM)の研究の誕生から、今後の研究についての概要をご説明します。


丸山ワクチン(SSM)誕生から予報ならびに本報発表

 丸山ワクチンは1944年、皮膚結核の治療薬として誕生し、ハンセン病の治療にも効果を上げる中で、がんに対する作用を調べる研究が始まりました。
 当初、皮膚科医の丸山千里(元日本医科大学学長・1901〜1992年)は1966年7月に日本皮膚科学会雑誌に予報1)を発表しており、それは常識からかけ離れた「結核菌のワクチンでがんが治療できる」という画期的な内容でした。 すなわち、尋常性疣贅、青年性扁平疣贅、疣贅状表皮発育異常症(癌前駆症)および皮膚癌等の患者に対し治効作用を示すこと、言いかえれば、ワクチンに組織細胞の異常増殖を抑制する作用のあることをほぼ推定することができたというものでした。 その後、丸山は1968年に日本医事新報において、丸山ワクチンによる悪性腫瘍の治療について本報3)を発表しました。 そこでは種々のがん患者158例に対してSSM投与により著効30例、有効68例という好成績を報告しました。
 また、後に丸山が海外講演4)を行った際、さらに種々のがん患者833人に対して丸山ワクチン投与により著効144例、有効271例という好成績が発表されました。 1981年には日本医科大学雑誌2)で丸山ワクチンの経緯や成果を回顧しました。そこには免疫療法はがん治療においては補助的なものとして捉えず、臨床でもワクチン療法単独で好成績を挙げたことが述べられています。 また静岡がんセンターの亀谷は海外で丸山ワクチンに興味を持たれた方に対する解説書7)として、丸山ワクチンの動向も含め、各臓器別でのがん患者における丸山ワクチンの有効性について発表しています。


丸山ワクチンの基礎研究

 丸山ワクチンのがん治療における基礎研究も精力的に行われ、1978年に佐藤による、多糖体に反応しやすい3種類のラットへ移植した腹水肝がんで、丸山ワクチンは対照に比べ3倍以上の延命と病巣壊死の誘導についての報告が発表されました。 また、1979年に東京大学薬学部の安部ら17)による、ツベルクリン陽性マウスでのエールリッヒがんの丸山ワクチンによる増殖抑制、1981年に東北大学のHayashiら16)による、丸山ワクチンによるマウスのインターフェロン産生増強、およびマクロファージ活性化によるがん細胞の増殖阻止、1982年には川崎医科大学の木本15)による、各種のヒトがん移植ヌードマウスにおける丸山ワクチンによる腫瘍縮小、消失、脱落。更に羽里ら5)は丸山ワクチンにおけるがんの和痛効果に注目し、enkephalin分解酵素に対する作用を検討し、aminopeptidase(サル脳細胞膜およびラット肝抽出物由来)が丸山ワクチンにより抑制されることから、丸山ワクチンが鎮痛効果を示す可能性を報告しています。
 上述の川崎医科大学の木本15)は臨床上3例の患者においてがんのコラーゲンによる封じ込め現象も実証しています。 1984年木本6)は川崎医学会誌において上述の3例の患者の結果を示し、更に1988年には木本ら9)は上述報告8)の丸山ワクチン投与患者を追跡して良好な結果を発表するとともに、ヒトのがんを移植したヌードマウスにおいて丸山ワクチンを投与した結果、がん患者と同様な結果をもたらす事も報告しています。


丸山ワクチンの治験成績

 1976年11月にゼリア新薬工業が抗悪性腫瘍剤として丸山ワクチンの製造承認の申請を行っています。 その際の資料の一部として、1980年Chemotherapy(日本化学療法雑誌)に服部ら10)が発表した資料を提出しました。 その資料では、抗がん剤に丸山ワクチンを併用した条件下、胃がん患者で認められた21.8%の腫瘍縮小効果については特に丸山ワクチンの相乗効果とは言えないものの、従来のがん化学療法と比較して生存日数の延長が認められました(1年:1.5% vs 28.1%, 2年:0 vs 9.4%, 3年:0 vs 6.3%)。
 さらに丸山ワクチンの申請にあたっては、大規模な治験が行われ、1983年に愛知県がんセンターの中里らを代表とするグループは、胃がん非治癒切除および切除不能症例に対する丸山ワクチンの臨床比較対照試験成績を発表し、非治癒切除症例に対して丸山ワクチン投与により生存率に有意ないし有意傾向を示しました。 また同年、東北大の後藤らが丸山ワクチン投与による治験での成績を発表13)しました。 延命効果に対しては全症例および胃がん症例とも360日以降で有意差(Z-test)が認められ、さらに約3年間生存した3例は全て丸山ワクチンを投与した患者であることが判明しました。
 他の抗がん剤や免疫療法剤が次々と承認される中で、皮膚科から誕生した丸山ワクチンは当初抗がん剤の関係者から不愉快に思われた節があり、1981年7月には新薬として承認・不承認をめぐって国会での集中審議が行われました。 結局、新薬として国からの承認には至りませんでした。 しかしながら、患者さんたちの熱い要望に応えて丸山ワクチンは有償治験薬という極めて特殊な取り扱いとなって今日に至っています。 さらに1991年6月、丸山ワクチンより高濃度のアンサー20注(ゼリア新薬工業)が放射線治療による白血球減少抑制剤として認可されました。


自然免疫への効果

 21世紀に入るころから、それまでの免疫の概念が大きく覆ります。自然免疫と獲得免疫という新しい考え方に変わりました。 皮膚や粘膜の表層部分に存在する自然免疫において、その中心的役割を担う樹状細胞、さらにδγT細胞およびNKT細胞に対する丸山ワクチンの作用が確認されつつあり、現在、日本医科大学で鋭意研究されています(第10回NPO「丸山ワクチンとがんを考える会」講演会プログラム2の項他、参照)。
 丸山ワクチンは今改めて「古くて新しい薬」として、自然免疫における作用の科学的解明に多大な期待がかかっています。


臨床成績および丸山ワクチンの今後について

 丸山ワクチンは更に臨床での効果が確認され、岩城ら11), 12)により10年以上丸山ワクチンを使用した胃がん、大腸がん患者の延命効果に関する調査結果が報告され、丸山ワクチン投与により化学療法剤等の副作用を軽減して患者のQOLを向上させ、かつ生存期間を延長させる事が示唆されました。
 現在、改めてゼリア新薬工業においてがんの治療薬として上市に向けて開発が進んでいます。目下、子宮頸部がんに対する効果を治験中であり、これに関しては後日報告できると思われます。